研究概要Research

日本の気候は多様です.それらの環境下で生じる建設材料の特徴を理解することが,土木構造物や建築物に関して生じている現象を理解するために必要です.
本研究室では,多様な環境と建設材料が良好な関係を築いていくことを目的に,

・再生骨材などの多様な骨材の建設材料への活用と,それによる材料の特性変化の解明
・周辺環境から影響を受けた建設材料で生じる現象の解明
・建設材料が環境に及ぼす効果や影響

などに着目して実験を通じた研究をしています.

特に,コンクリートを対象とし,本研究室で開発したX線CT装置や屈折率透過法などを利用した材料内部で生じる現象の見える化に取り組んでいます.

●詳細を知りたい方は,麓までメールでお問い合わせください.

研究概要の目次
コンクリートの基本
X線CTとその活用
研究例@:再生骨材を用いたコンクリートの物性変化とその要因の考察
研究例A:凍結作用によるコンクリート内部の体積膨張の解明
研究例B:X線CTによるコンクリート内部の水分移動と体積変化
研究例C:文化財に使われる岩石を模した模擬岩石の製造
その他


コンクリートの基本

コンクリートは,主に骨材をセメントペーストで接着した人工的な岩石です.骨材は,コンクリート全体積の60〜70%ほどを占めています.

セメントペーストは,混合した水とセメント,混和材などの粉体が水和反応などによりできる硬化体です.セメントペーストはそれ以外の粉体に対する水の重量比率(W/P)が大きいほど細孔が増加し,接着強度や耐久性が低くなります.

骨材は,0.15〜5mmの細骨材と5mm以上の粗骨材に分類されます.使用される材料は,様々な岩石,各種スラグ,コンクリートがらなど様々な材質のものが使用されます.密度や吸水率,変形抵抗性などが異なります.


X線CTとその活用

院長写真

X線Computed Tomography(X線CT)は,X線を使用して対象内部を3次元的に見える化する手法です.

TVドラマ「チームバチスタの栄光」や「ラジエーションハウス〜放射線科の診断レポート〜」などで,死因や病状の原因を解明する高度な手段として描かれています.近年では,魚類や動物の体内構造,ミイラや仏像などの考古学や芸術品に眠る秘密を明らかにするためにも活用されています.

本研究室では,コンクリートで300kNまでの荷重を載荷した状態で内部を可視化するためのX線CTを製造しました.載荷状態や劣化したコンクリート供試体の内部画像を取得し,その画像から輝度計測や画像計測を通して含水状態や体積変化を推定しています.

現在,Particle Tracking Velocimetry (PTV)やDigital Volume Correlation(DVC)といった画像計測を活用しています.今後,高解像度化などにも取り組む予定です.

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麓隆行:新しい機構のX線CTの開発とポリマーコンクリートの圧縮試験への適用,土木学会論文集E2, Vol. 69, No. 2, pp. 182-191, 2013.4
麓隆行:X線CT画像によるコンクリート内部の物性変化の可視化,コンクリート工学,Vol. 59,No. 3,pp. 239-246,2021.3
裏泰樹, 麓隆行, 竹原幸生, 開発したX線CT装置を用いたコンクリートの内部変位計測精度に関する基礎研究, コンクリート工学年次論文集, Vol. 38, No. 1, pp. 429-434, 2016.7
麓隆行, 裏泰樹,Stephen A. Hall, X線CTによる圧縮応力下のコンクリート内部の3次元ひずみ分布計測向上のための基礎研究, 土木学会論文集A2(応用力学), Vol. 76, No. 2, pp. I_337-I_346, 2021.2


研究例@:再生骨材を用いたコンクリートの物性変化とその要因の考察

院長写真

コンクリートに使用する骨材は多様で,コンクリートがらから製造された再生骨材などでは強度や変形抵抗性が低い箇所があります.

研究開始当初,再生細骨材を用いたモルタルの各種強度,乾燥による体積変化,中性化などの性質について調べ,再生細骨材の吸水率が要因であることや,その影響を考慮した指標として単位セメント量とモルタル中の全水量(単位水量+細粗骨材の全吸水量)の比C/TWの有効性を明らかにしました.

近年では,そのような骨材を利用したコンクリートに,圧縮荷重がかかると,固さの異なるセメントペーストと骨材が異なる変形挙動を起こします.研究室独自のX線CT装置と画像計測を利用してその挙動を明らかにし,多様な骨材の利用法に関して考えます.

関連記事
麓隆行, 山田優, 再生細骨材の使用がコンクリートの性状に及ぼす影響とその原因について, 土木学会論文集, Vol. 767, pp. 61-73, 2004.8
麓隆行, 柏木洸一, 副産物粗骨材の弾性係数がコンクリートの圧縮破壊挙動に及ぼす影響, コンクリート工学年次論文集, Vol. 31, No. 1, pp. 145-150, 2009.7
麓隆行, 角掛久雄,松村也寸志,山田優, 建築物に施工後10年を経過した再生粗骨材コンクリートの性状に関する検討, コンクリート工学年次論文集, Vol. 37, No. 1, pp. 1411-1416, 2015.7
麓隆行, 鈴木雄介,松尾祐希,國時凌央, 乾燥する再生粗骨材コンクリート内部での付着モルタルの変形に関する基礎検討, コンクリート工学年次論文集, Vol. 44, , 2022.7

   

研究例A:凍結作用によるコンクリート内部の体積膨張の解明

院長写真 2017年のスウェーデンへの留学先での研究を継続して進めています.

水分が凍結すると10%の体積膨張を起こします.コンクリート内部でそのような体積膨張が生じ,微小なひび割れが起こります.この現象が繰り返されると,ひび割れが進展し,内部組織が緩む,凍害が生じます.      
そこで,X線CT画像と画像計測を用いて,コンクリート内部での凍結・膨張現象は解明します.例えば,円柱供試体を-15℃程度まで冷却した内部の体積変化分布や,円柱供試体の上端面のみを-15℃程度に冷却した際の高さ方向の温度分布と体積膨張分布からコンクリートにとって有害な温度と膨張量との関係を検討しています.

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麓隆行, 山本大悟,村田隆男,高田良章, X線CT法を用いた氷点下での空気無混入モルタル内部の体積変化, コンクリート構造物の補修・補強・アップグレード論文報告集, Vol. 21, pp. 149-154, 2021.10

研究例B:X線CTによるコンクリート内部の水分移動と体積変化

院長写真 X線CTは,材料内部の相対密度変化をある程度の精度で計測できます.その特徴を生かして,コンクリート内部での水分移動を可視化するとともに,体積変化との関係を明らかにします.

例えば,硬化後のコンクリートでは乾燥により水分が逸散することで表面張力により体積収縮を生じます.また水分を吸収すると体積膨張を生じます.その変化は供試体の外側からしか検討できませんでしたが,X線CT画像を用いれば,その輝度から内部での3次元的な水分分布の変化を,また画像計測から内部の3次元的な体積変化を計測できます.

このほか,コンクリートが固まる前のフレッシュ性状についても検討を始めます.

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麓隆行, , X線CT法によるペースト供試体内部の水分逸散による体積変化分布に関する基礎研究, コンクリート構造物の補修・補強・アップグレード論文報告集, Vol. 19, pp. 407-412, 2019.10
麓隆行, 高木雅斗, X線CTを用いた乾燥によるモルタル内部の密度および体積変化分布の評価, 土木学会論文集A2(応用力学), Vol. 77, No. 2, pp. I_349-I_358, 2022.2

研究例C:文化財に使われる岩石を模した模擬岩石の製造

院長写真 日本の文化の地域性や変遷を示す重要な証拠である「文化財」.その一つに石でできた仏像や古墳などの石造文化財があります.石造文化財は囲うものがなく風雨や気温変化にさらされるため劣化しやすい.そのため,石造文化財の保存方法を検討する必要があります.

しかし,文化財を傷つけることはできないうえ,原料となる岩石を別途得ることができない場合もある.そこで,劣化原因の推定や有効な保存法を検討するために,原料となる岩石の性質を模した模擬岩石を用いた実験的研究が必要とされています.

本研究室では,もともと人工的な岩石として使用されたコンクリートを,文化財に使用される多様な石と同様の性質をもつ模擬骨材として使用するための設計手法を検討しています.

その他

院長写真 その他にも,多孔質材料(ポーラスコンクリートなど)内部の水の流れの解明,アルカリ骨材反応(ASR)による内部ひび割れ進展の可視化,鉄筋周辺のせん断変形挙動の可視化などの課題にも取り組んでいます.

近畿大学理工学部
環境材料学研究室

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大阪府八尾市新家町8-23-1
近畿大学社会環境工学科実験棟
1階 コンクリート実験室
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